Our Lamb

凍らせない、塩をあてる、備長炭で焼く

ジンギスカンを敬遠される理由は、たいてい「臭い」と「硬い」の二つです。狸九はその二つを、仕入れと仕込みの段階で外しにいきました。使うのは未冷凍のチルドラムだけ。北海道・羅臼の塩をあてて、二日以上寝かせてから炭にのせます。

一、凍らせない

羊肉特有の香りのもとは、脂に含まれる 4-メチルオクタン酸などの脂肪酸だとされています。冷凍と解凍を繰り返すほど脂の酸化が進み、この香りは強く出ます。狸九はチルドのまま仕入れ、凍らせません。解凍時のドリップで旨みが流れ出ることもありません。

冷凍ラムは、流通の都合では優秀です。長く保存でき、どこへでも運べる。ただし一度凍らせた肉は、解凍のときに細胞が壊れ、水分と一緒に旨みが流れ出ます。皿の下に溜まる赤い液体が、それです。

だから狸九は、冷凍庫を当てにしない仕入れ方をしています。週に4〜5回、使う分だけを入れる。在庫を抱えない代わりに、凍らせる理由がなくなります。「生ラム」と名のつく店は多くありますが、その言葉が成立するかどうかは、焼く日の何日前に肉が届いたかで決まります。

炭火のジンギスカン鍋で焼く未冷凍の生ラム|狸九

二、塩に戻ってきた

知床・羅臼の塩をあて、二日以上寝かせます。塩は余分な水分を引き、その間に肉自身が持つ酵素がゆっくりと働きます。味を付けるための塩ではなく、時間をつくるための塩です。

ここに行き着くまでに、ずいぶん回り道をしました。塩麹に漬けてみる。燻してみる。たれに漬け込んでみる。味を変える方法はいくらでもあって、ひととおり試しました。どれもそれなりに旨くはなるのですが、羊の香りまで一緒に塗り替えてしまう。何のために未冷凍にこだわったのか、わからなくなる。

結局、塩だけが残りました。羊の味を足さず、引き出す方法がこれだったからです。

羅臼を選んだのは、昆布が育つ海の塩だからです。知床・羅臼は羅臼昆布の産地として知られる海で、その海水から取った塩をあてています。

寝かせるあいだは、低温で、じっくり。急がせると、塩は表面を締めるだけで終わってしまいます。二日以上という時間は、短縮できるものではありませんでした。

三、七輪と備長炭

卓上は七輪です。炭は備長炭を使います。

ガスの火は、まず空気を温めます。その熱が肉に伝わる。炭は違います。炭そのものが出す輻射熱が、肉の表面を直接たたく。だから表面だけが早く締まり、中の水分が閉じ込められます。備長炭は火力が安定して長持ちするので、一枚目と最後の一枚で焼き上がりが変わりません。

何度も返さず片面ずつ焼く——それだけで、同じ肉がやわらかく仕上がります。むやみに返さないほうが、焼き面が冷えずにすみます。

炭火の鍋を囲む焼物三種(熟成肩ロース・極み塩ジンギスカン・塩〆ラムロース)|狸九

四、なぜ「熟成」なのか

やわらかくなる理由|食肉が軟らかくなるのは、カルシウムイオンやタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)が、筋肉の中の筋原線維の構造を弱めるためだと説明されています。時間をかけるほど、この働きが進みます。屠畜後4℃での貯蔵で必要とされる日数の目安は、牛肉で約10日、豚肉で3〜5日。狸九は羊肉を、塩をあてた状態で二日以上寝かせています。

旨みが増える理由|同じプロテアーゼが肉のタンパク質を分解すると、うま味を持つペプチドやアミノ酸が増えていきます。

臭みが出ない理由|羊臭さの主因とされる 4-メチルオクタン酸などの脂肪酸は、脂の酸化とともに強くなります。チルドのまま流通させれば脂の酸化は抑えられ、香りは穏やかなまま手元に届きます。

出典|日本食肉科学会「食肉の熟成」(軟化・うま味生成のしくみ、畜種別の熟成日数の目安)/じんぎすかん あんべ「生ラムジンギスカンとは?」(羊肉の香りの原因物質、冷凍・解凍と脂の酸化)。熟成日数および仕込みの内容は狸九の実際の仕様です。

五、三種を、食べ比べてください

同じ羊でも、部位と仕込みで別の食べものになります。狸九は三種をそろえているので、一度に食べ比べていただけます。

  • 狸九の熟成肩ロース¥1,680
  • 極み塩ジンギスカン¥1,880
  • 塩〆ラムロース¥1,480
狸九の熟成肩ロース。羅臼の塩で二日以上熟成させたラム肩ロース
極み塩ジンギスカン。厚切りの生ラムを塩で味わう狸九の看板メニュー
塩〆ラムロース。塩で締めた薄切りのラムロース|狸九